凸と凹「登録先の志」No.6:中山勇魚さん(NPO法人Chance For All 代表理事)
家にいるのが嫌だった学生時代
ぼく自身は親が公務員で、家庭にお金がなかったわけではなく、幼いころは平穏な日々を送っていました。それが小学3年生の頃に一転。3つ上の兄が非行に走るようになり、高校を中退。暴走族などと関係をもつようになります。家族も言い争いばかりしていて、家に帰るのが嫌で嫌でたまりませんでした。
数年経っても事態は一向に改善せず、エスカレートするばかりだったので、ぼくが18歳のときに家族で夜逃げし、ウィークリーマンション等を転々とする生活になりました。夜逃げを提案してくれたのは、NPOの人たちでした。リセットするべきと言ってもらい、生活を立て直すことができました。兄自身もそれがきっかけで今は定職につき、結婚して、子どももいます。
いい家庭と比べて自分は不幸だと思っていたけれど、もっと大変な家庭があることを大人になって知りました。自分自身は運がよかったのか、いろいろな人に助けてもらいました。自分も何かできるのではないかと思うようになりました。
大学時代に学童でボランティアを始め、そこからアルバイトになりました。二人いた正規職員の先生は一年以内に辞めてしまい、いつのまにか自分が一番古株になっていました。地域の力がなくなっている中で、19時、20時まで学童を利用する人がたくさんいることを知り、自分で学童を立ち上げたいと思いました。学生の間に仲間と立ち上げようと半年ぐらいチャレンジしたけれど、うまくいきませんでした。そこで社会人としての経験を積んで、数年後に改めて新たな仲間たちとChance For All(以下、CFA)を立ち上げました。
子どもだけの自由な場所がどこにもない
学童に通う子どもたちが今すごく増えています。全国で130万人を超え、小学3年生までの半数近くが通っています。どんどん管理的になっているので、放課後の時間を子どもたちのための時間にしないといけないと感じています。「自分で考える力を養う」「新たな教育」といったことが言われますが、子どもたちが自ら選択できることがどれだけあるのでしょうか。
子どもは家族といるときともまた別の、自由な顔を本来持っています。ぼく自身も子どもの頃にけんかをしたり、いろいろな失敗をしてきましたが、今の子どもたちはその失敗する時間が奪われてしまっています。塾や習いごとは大人が評価する場所になり、お金がない子はそういった場所すらありません。子どもだけの自由な場所がないことに危機感を覚えています。
学童の機能も変化しています。昔は今ほど人数が多くなかったので、ある種の自由さがありました。今の学童はたくさんの子どもたちが長い時間を利用するので、何か起きないようにするのがすごく大変です。
CFAには大人はいますが、監視員はいません。昔で言う「ガキ大将」とか「地域のおじさん」といった関係がCFAの学童「CFAKids」だと思っています。学童で過ごす時間は年間約1,600時間と、低学年の子どもたちが小学校で過ごす時間よりも長く、そこに可能性を感じています。学校も子どもたちを評価する場ですが、CFAではそういったことがありません。子どもが子どもでいられる、子ども同士の関係があります。
お金が理由でチャレンジできないのはあってはならない
今、放課後の過ごし方がサービス化しています。お金がないとそのサービスからこぼれてしまうし、親が子どもの放課後を管理するようになっています。親が子どもの放課後の居場所を決めてしまうと、お金のある・なしで同一性が高くなってしまい、多様な子どもたちが一堂に会することができません。排除された子はずっと排除されたまま。お金が理由でチャレンジできないというのはあってはならないと思っています。社会としてどんどんおかしくなってしまいます。
公立の学童なら生活保護世帯は無料で通えますが、人数が増えすぎて単なる預かり場所という感じになっているところも少なくありません。CFAは子どもたちが子どもとしていられる時間を作ろうとしています。子どもたちが自分で決めたり、自分で作っていくことを大事にしています。残念ながら、家が居場所になっていない子どももいます。ぼく自身がそうでした。塾が居場所で、毎日夜12時ぐらいまでいました。くだらない話も塾の先生がしてくれて、心理的な安全性がありました。
CFAKidsの数も少しずつ増えてきましたが、増えれば増えるほど、自分たちが大切にしてきた考え方が薄くなってしまうかも…というジレンマがあります。しかし、ここであきらめてしまったらダメだと思っています。事業を拡大してきたことで、CFAKidsを利用するにあたって必要となる料金をすべて免除する「奨学制度」や、CFAが子どもたちに提供している価値を確認する「アセスメント」を、今年度から本格的に取り組む予定です。CFAの活動をさらに深め、他にもっと広げていくチャレンジを、ぜひ応援いただきたいです。
取材者の感想
学生時代の驚きのエピソードを、まるで昨日見たドラマのように淡々とお話されるところからインタビューは始まりました。
中山さん自身が「安心していられる居場所(=塾)に助けてもらった」という経験があるからこそ、同じような居場所を子どもたちに作りたいという強い気持ちにつながっていることを感じました。
「子ども目線で語れる大人」の存在がこれだけ貴重になっているのは、現代だからこそではないでしょうか。これからもさまざまな子どもたちの代弁者として、一番の味方であってほしいです。(長谷川)
中山勇魚さん:プロフィール
NPO法人Chance For All 代表理事
早稲田大学教育学部卒業。18才の時に家庭の事情で家族が夜逃げ。東京都内のホテルやウィークリーマンションを転々とする。環境によって人生が大きく変わってしまう経験を経て「家庭や環境で人生が左右されないためにはどうしたらよいのか」を考え始める。大学在学中に様々な環境のこどもたちや教育のあり方について学んだり、学童保育の指導員として現場で勤務する中で放課後の可能性に着目。卒業後は保育系企業にて新規園の開発に従事。その後、IT企業でシステムエンジニアとして勤務しながら学童関係者とともに「こどものたちのための放課後」を実現するための準備を開始し、2014年にCFAKidsを開校。
NPO法人Chance For Allは、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」の登録先です。
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