凸と凹「登録先の志」No.7:藤場恵見さん(NPO法人Chance For All 理事)


子どもが住みよい環境や社会を整えるために


代表の中山との出会いは、キッザニア東京で一緒に働いたことがきっかけでした。キッザニアは、子どもたちがリアルなお仕事体験を通して輝く場所です。一方で、一期一会というか、子どもたちに継続して関わることはできませんでした。「学童は生活の場だから、子どもの成長をずっと見ることができて、可能性があると思う。一緒に学童をつくらないか」と中山に誘われて、とにかくやってみようと思い、Chance For All(以下、CFA)を立ち上げました。放課後の問題や学童の大変さなども知らないまま、「学童やNPOって何だろう?」というところから始まりました。

先日、保護者の方にインタビューをした時、「ボランティアをしていた公立の学童の先生たちは、学童で働きたくて働いているわけではないなと感じていたけれど、CFAの説明会で藤場先生に出会い、この人は学童で働きたくて働いている人だと思った」と言われました。うれしい反面、違和感も持ったんです。学童で働くことは私にとって目的ではなく、子どもたちにとって住みよい社会や環境をつくっていくためだと思いました。その手段として、学童=CFAがよりよい場になっていくことが大切だと思って活動しているんだなと感じています。


子どもを育てている親も子育てが難しくなっている


放課後の問題でいうと、まず子どもが習いごとなどで忙しい。そして、その子どもを育てている親も共働きだったり、ひとり親が増えていてとても忙しい。子育てに悩んでも相談できる相手が減っていて、自分でなんとかしなければならない状況が増えています。近所で助けてくれる人が減ってきているから子育てのノウハウが途切れていて、悩んでいるけど相談できなくて、自分でやってみたけどうまくいかなくて、学校や地域の人から怒られて、自分の子どもを怒って、子どもも嫌だなと思って…という悪いサイクルに陥っています。

今はひとりっ子もすごく増えていて、子育てに失敗したくない、自分の子どもが将来困らないようにしてあげたい、そのために塾や習いごとをたくさんさせているプレッシャーのような一面もあるのかなと感じています。保護者の方が一人で抱えて込んでしまわず、先人の知恵や経験も活かしながら、子どもたちにとってよりよい子育ての輪が広がっていけばと思います。

これまで関わってきた子どもたちの中では、とんでもなく野菜嫌いだった子が印象に残っています。保護者の方も忙しく、家でゆっくりご飯を作って食べることが難しい子どもでした。CFAでは、希望するご家庭には夕食(現在は新型コロナウイルスの影響でお弁当)を作って提供しています。まだ幼かったとはいえ、手づかみで食べるし、野菜は吐き出しちゃうし、食べている最中に寝転んでしまうような子でした。

その子が学校の給食の時間にばかにされたり、将来ご飯を食べる席で恥ずかしい思いをしたりしないために、試行錯誤の日々が始まりました。例えば、夕食で野菜を残さず食べられた日にニッコリマークを描いていく「もぐもぐカレンダー」を作りました。できたがんばりが目に見えることが張り合いにつながったようで、食べられる野菜も少しずつ増えていきました。おはしの持ち方も一緒に練習して、野菜たっぷり手作りご飯もだんだん残さず食べられるようになりました。家庭だけでは担いきれなかった部分を、少しは担えたのかもしれません。


すべての子どもが機会や体験に出会える状況をつくりたい


CFAは民間施設であり、例えば公立の学童に通えなかったり、さまざまな事情で公的なサービスでは不十分だったりする家庭の子どもたちも多く通っています。そのため、現時点では公的な補助金を受けることができません。運営が保護者のみなさんからの保育料金で成り立っているので、元々はその料金を払うことができるご家庭の子どもしか受け入れることができませんでした。でも、昨年度「奨学制度」ができて、就学援助を受けているご家庭の子どもは無料で受け入れられるようになりました。現在、複数名の利用があります。お金がないから学童に通えなかったり、見守ってもらう機会がないのではなく、お金がなくても機会や体験に出会える状況を、少しずつつくることができています。機会や体験に恵まれた子どもをもっと増やしていくために、「奨学制度」への寄付も増やしていく必要があります。

「CFAは(公立学童に比べて)利用料が高い」と言って入会しない方や、「弟が小学校に入るから2人は難しい」と下の子が入って上の子がやめたこともあります。その方たちはまだ迷うことができる状況でしたが、迷うという選択肢すらない方もいらっしゃると感じています。そういったご家庭の子どもたちも、CFAに通うことができる環境をつくりたいです。


取材者の感想


文中に出てきた野菜嫌いな子は、いつも藤場さんのことをお母さんだと思っていて、「うちに一緒に住めばいいのに」とよく言っていたそうです。核家族化が進んでいると言われて久しいですが、昔は地域全体で担っていた子育てを家庭だけで担うのは負担がとても大きく、子どもはもちろん、保護者にも寄り添える存在として、CFAは地域になくてはならない存在になっているんだと感じました。

藤場さんに「子どもたちにとってどんな先生なんですか?」と質問すると、「よく叱るので、こわい人と思われているだろうなと思っていたけど、『藤場先生はこわくない先生だよね』と言われてびっくりした」との答えが返ってきました。「甘やかすことと子どもの主体性を大事にすることは似ているけれど違うと感じていて、その線引きはできるようにしたい」と話す藤場さんの気持ちが、子どもたちにもきっと届いているのだと思いました。

代表の中山さんによると、藤場さんはキッザニアでも子どもたちのことを一番に考えて、少しでも違和感を持ったら上司にも臆せず立ち向かっていたとのこと。「一緒に活動したら正しい方向に戻してくれる人ではないかと思った」というお話を聴いて、CFAにとっての藤場さんの存在の大きさを実感しました。(長谷川)


藤場恵見さん:プロフィール


NPO法人Chance For All 理事

学生時代からこどもと関わることが大好きで、こどもたちを連れて海や山へ連れて行く活動に携わる。その中で、自分たちの「街」を自分たちで運営する“こどもの街”プロジェクトに関わり、こどもたちの成長を実感。その経験を通して、大学卒業後は様々なお仕事体験ができるテーマパークに勤務。日々たくさんのこどもたちと関わる中で、彼らの将来について考えた時、目の前のこどもたちだけではなく、よりよい社会環境にしていく必要があると実感するようになる。そんな中、現CFA代表の中山勇魚と出会い、放課後の重要性に気づいたことで、学童保育の立ち上げに携わることを決意。2014年CFAKidsを立ち上げ、現在に至る。




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