凸と凹「登録先の志」No.41:伊藤文弥さん(NPO法人ユアフィールドつくば 代表理事)


議員インターンシップを通して“自分ごと”になった社会課題


大学2年生の時、議員インターンシップに参加しました。目的は単純に「議員になりたい」という気持ちでしたが、そこで初めて「障がい者」という社会課題と向き合うことになりました。インターンシップを通して発達障がいというものを知り、関心を持つようになったのです。身近な人も発達障がいに苦しんでいたことに、その時初めて気づきました。それまで自分には関係ないと思っていた社会課題が、急に身近に感じられるようになりました。

その後、障がい者福祉の事業立ち上げにかかわることになりました。もともとは“カッコいい仕事”を選びたいと思っていたので、福祉や農業に携わることには少し違和感もありました。しかし、農業も福祉も奥が深く、自分に合った仕事だと感じるようになりました。どちらも単なる肉体労働ではなく、頭を使う場面が多い仕事です。障がいのある方の医療や介護、余暇の過ごし方まで考える必要があり、その難しさにおもしろさを感じています。

議員になりたかった原点は、高校時代にさかのぼります。あいうえお作文の「!」の担当になり、クラスメイトを驚かせたくて「将来は総理大臣になります!」と書いたことで、政治家への憧れを自覚しました。大学では化学を専攻しましたが、成績はふるわず、居場所がなかった自分にとって、インターンシップや事業の立ち上げは、自分の力を試し、成長を実感できる貴重な経験でした。議員インターンでお世話になった五十嵐立青さん(現つくば市長)から事業の立ち上げの話を受けた時、条件も提示されないまま「やります」と即答したのは、挑戦したい気持ちが強かったからだと思います。


多様な人が当たり前に混ざり合える地域に


私たちの取り組みは、障がいのある人たちと農業をするところから始まりました。数年で状況は大きく変わり、障がいのある人が働ける場は急速に増え、当初の問題意識はすぐに役目を終えてしまいました。農家の高齢化が進む中で、農家が減っていることにも問題意識を持っていましたが、『農家はもっと減っていい』という本を師匠である農家の久松達央さんが出すなど、思惑が完全に外れていきました。その頃から、「私たち福祉施設が担う役割はなんなのか」を考えるようになりました。

現場にいると、障がい者の方の就労の場だけ整えても、生活が昼夜逆転して通えない人や家庭の状況が厳しく外に出られない人など、サービスが届かない人がいることに気づきます。そうした現実を前に、仕事だけではごきげんになれないと感じ、訪問看護や生活支援など、事業が自然と広がっていきました。複雑な事業を回すのは正直大変です。それでも、過去に戻ったとしても同じ道を選ぶと思います。必要な支えは、単純な形では収まらないからです。

私たちがめざしているのは、「障がいがある人が働けてよかったね」という話ではありません。地域そのものが、多様な人が当たり前に混ざり合える場所になることです。そんな地域に自分たちも住みたいし、その実現に少しでも貢献できるとうれしいです。

今の社会では「インクルーシブ教育」が語られながらも、実際にはまだ多くが分けられたままです。大企業では法定雇用率によって一緒に働く場面が生まれても、日常的な接点がなければうまくいきません。差別と配慮は違います。必要な配慮がある関係を日頃からつくることで、お互いにとってよい状況がつくれるはずです。障がいは、いつ誰がなるかわからないもの。その現実にフタをしてしまっているから、急に身近なものになった時に拒否反応が出てしまうのではないかと考えています。


「あそこに行きたい」を当たり前にするために


2011年から障がいのある方の就労の場づくりを始め、その後は暮らしの場づくりにも取り組んできました。働くことも暮らすことも、自分らしく生きるためには選択肢が必要です。今では農場で働くメンバーも150人ほどになり、訪問看護にも取り組むようになりました。

活動を続ける中で、ここ数年とても強く感じているのが「移動」の問題です。以前は働くことや暮らすことといった“身近な困りごと”が多かったように思いますが、最近は「あそこに行きたい」という声が自然と上がるようになりました。でも、一人では出かけられず、ヘルパーさんも足りないし、お金の問題もあって、行きたい場所に行けない人が多くいます。

月に一度くらい好きな場所に出かけることはぜいたくではないはずです。でも、移動支援は単体では採算が取りにくく、必要なのに事業として成り立ちにくいのが現状です。2026年度からは重度の方のグループホームを運営しますが、暮らしの場が増えるほど、移動の必要性はより切実になります。職員だけでは一人ひとりの希望に寄り添いきれません。

行きたい場所に行けるかどうかで、人生のストレスは大きく変わります。閉じこもる生活を強いるのではなく、外に出られるようにすることは、本人のためだけでなく、周りの人たちが楽しく過ごせることにもつながります。移動支援が整えば、福祉の仕事自体ももっと楽しくなるはずです。その仕組みをつくることが、今まさに必要だと感じています。


取材者の感想


伊藤さんが語られた「福祉の世界をアップデートしたい」という視点が、取材を通して強く印象に残りました。事業のフランチャイズ化を提案された際も、連携による相乗効果を通して福祉業界の水準そのものを高めたいと考え、断ったというエピソードに、その姿勢が象徴されているように思います。

障がいのある方に限らず、高齢者福祉の現場でも、免許返納をきっかけに外出が減り、そのまま心身の状態が悪化してしまう例は少なくありません。「行きたい場所に行けない」という制約は、誰にとっても大きなストレスになります。「行きたいと思った時に、行きたい場所に出かけられること」は特別な支援ではなく、人が自分らしく暮らすための基本的な条件なのだと改めて気づかされました。(長谷川)


伊藤文弥さん:プロフィール


NPO法人ユアフィールドつくば 代表理事

1988年5月31日生まれ。筑波大学理工学群化学類に進学。議員インターンシップを通じて、現つくば市長五十嵐立青のもとで活動し、農業と福祉の問題に取り組む。大学卒業後、五十嵐とともにNPO法人つくばアグリチャレンジ(現NPO法人ユアフィールドつくば)を設立し、ごきげんファームをスタート。現在は4カ所のごきげんファームに加えて、障害のある人たちのグループホーム展開。世界の傑出した10人の若者として国際青年会議所のTOYP(Ten Outstanding Young Persons)を受賞。社会福祉士、精神保健福祉士、公認心理師、保育士、中小企業診断士の資格を持つ。スクールソーシャルワーカーとして活動経験があり、現在は保護司として活動いる。つくば市並木在住。2024年つくば市議会議員選挙で初当選。現在、福祉保健委員会の副委員長と最終処分場に関する調査特別委員会の委員長を務める。



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