凸と凹「登録先の志」No.42:久保田果奈子さん(NPO法人支援センターあんしん グループホーム管理者)


「こんな場所がほしい」から始まった家族の物語


グループホームの管理者をしています。現在12棟あり、1棟ごとに4〜7人の方が暮らしています。毎日なにかしらの“〇〇劇場”が生まれるほどにぎやかです。私は会長の樋口功の長女で、父とともに支援センターあんしんを立ち上げた最初の職員でもあります。きっかけは、一番下の妹が交通事故で重度の知的障がいを負ったことでした。

当時、今のように福祉サービスが整っておらず、妹はほとんど自宅で過ごしていました。保育園には預けられず、学校では足を踏まれたり、「来るな」と言われることもありました。きょうだいの私たちもさまざまな言葉を浴びせられ、心が鍛えられました。今で言えば「ヤングケアラー」のような立場で、母が妹の面倒を見られない日は、学校を休んで妹の世話をすることもありました。

妹が12歳から宿舎に入りながら養護学校に通えるようになったのは大きな前進でしたが、卒業後に通わせたいと思える施設が新潟・十日町にはありませんでした。それなら自分たちでつくろうと、家族で24年前にあんしんを立ち上げました。私は社会福祉系の学校で学び、北海道伊達市で入所施設を出た方の地域生活を支える現場を半年間経験し、その後十日町に戻りました。

活動を続けるうちに、妹がいたからこそ出会えた人がいると気づきました。妹がいてくれたから歩めた人生だと受け止められた瞬間が、私にとってのターニングポイントです。福祉の専門家はおらず、地域の経営者が中心となって立ち上がったあんしんだからこそ、“福祉っぽさ”にとらわれない歩みを24年間続けてこられたのだと思います。


不幸を“授け物”に変え、社会を動かす力へ


障がいに限らず、例えばギャンブル依存や不登校など、人は誰でも何かしらを抱えて生きているものだと思っています。それを“天からの授け物”としてポジティブに受けとめられるかどうかで、人生の景色は変わります。降りかかった不幸をきっかけに、社会を少しでもよくする行動につなげていくことには、大きな意味があると感じています。

妹には重度の障がいがありますが、それでも「働きたい」という強い気持ちを持っています。どんなに重い障がいがあっても、働くことを通して幸せに近づいてほしい。給料を受け取る喜びを胸に家へ帰る日常を手にしてほしい。そんな願いが、あんしんの活動を続ける支えになっています。

あんしんに来た子が、生き生きと変わっていく姿を見ることがあります。ほんの少しの手助けがあるだけで、人は変われるんです。私たちは、その“ちょっとしたきっかけ”になれる存在でありたいと思っています。障がいに限らず、家族のささやかな困りごとを、前向きな方向へと動かす小さな転換点になれたらうれしいです。


20年後に人口半減のまちで、いま動き出す


どこの地域も似た状況ですが、十日町市の人口減少はとても深刻で、20年後には現在の約4万6千人が半分になるとも言われています。私は中2から3歳まで4人の子どもの母で、長女の中学校の「あり方検討会」に参加しています。市内に10校ある中学校を、10年後には1校に統合するという話も出ているほど、まちは急速に変わろうとしています。

こうした危機感から、今年「にもプロジェクト」を立ち上げました。十日町とかかわる機会や人を増やし、まち全体を元気にしていく取り組みです。子どもの数は減り続けていますが、グレーゾーンの子や不登校の子は増えています。そうした子どもたちを受け入れられる地域にしていきたいし、卒業後にも行き先がきちんとあるまちにしたい。「十日町の人って、いいよね」と言われる地域をつくりたい。あんしんも、その担い手の一つでありたいと思っています。

地域の小学校では福祉を学ぶカリキュラムがあり、4年生が数年前からあんしんの現場を見学に来るようになりました。以前は、下校時に利用者さんとすれ違うと子どもたちが怖がったり、クレームが来たりすることもありました。でも見学をきっかけに、利用者さんを「あんしんの〇〇さん」と名前で呼ぶようになり、関係が少しずつ変わってきました。障がいのある人が地域で暮らしているという当たり前の姿を、子どもたちが自然に知る機会になっています。

今年の秋の学習発表会では、4年生があんしんを見学したことをテーマに発表してくれました。「障がいがある人はかわいそうじゃない。みんながんばっている人なんだ」と話す姿を見て、とても胸が熱くなりました。地域が変わる瞬間は、こんな小さな気づきの連続から始まるのだと思っています。十日町を少しでも住み続けられる街にするために、「にもプロジェクト」への応援よろしくお願いします。


取材者の感想


妹さんが養護学校に入学して離れると、中学校や高校では妹の存在が知られておらず、周囲に紹介するのに葛藤があったと言います。そんな中、友人が家に遊びに来た際に妹さんを紹介すると、「かわいいじゃん」と声をかけてくれたことがきっかけとなり、友人と一緒に養護学校へボランティアに行くようになったそうです。

その後、北海道へ行くことや「あんしん」に入ることについても、「妹がいるからこそできる」と感じていたと、かなこさんは話してくれました。「友人に恵まれた」と言っていましたが、それだけではなく、どんなできごとも前向きに受け止めるかなこさん自身の姿勢が、自然と人とのつながりを広げてきたのだと感じました。

父である樋口会長から受け継がれた確かなエネルギーが、オンライン越しにも、しっかりと伝わってきました。(長谷川)


久保田果奈子さん:プロフィール


NPO法人支援センターあんしん グループホーム管理者

樋口家の長女として生まれる。三人姉妹の三番目が交通事故で重度の障がいを負ってから、障がい児のいる家庭の生きにくさを感じながらも、こんなもんだと思い生活する。社会福祉系の大学に進学し、在学中に福祉先進国のスウェーデンや北海道伊達市、長野県飯山市で実習を経験する中で、重度障がい者も地域でサービスを受けながら生活していることを知る。大学卒業後、重度障がい者の地域生活を実現したく父親とともにNPO支援センターあんしんを立ち上げる。2009年結婚。産休・育休を繰り返しながら4人の母となり、ようやく現場復帰。夫は支援センターあんしん事務局長。




NPO法人支援センターあんしんは、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」の登録先です。

凸と凹マガジン

社会課題という地域の「穴(凹)」を、 みんなで「埋める(凸)」勇気を育むウェブマガジンです。 “志金”循環の新たな仕組み「凸と凹(でことぼこ)」の登録先が、 社会課題の解決に挑む志を共有しています。 https://deco-boco.jp/