凸と凹「登録先の志」No.40:清水奈緒子さん(一般社団法人ヒトノネ 理事)
教員から親、そして支援者として広がっていった視点
最初のキャリアは教員でした。子どもたちを「子どもの目線」で見ることを大切にしながら過ごしてきました。ヒトノネ代表理事のはなこさんと出会ったのは、子ども会の歓送迎会です。上の子が同い年だった縁もあり、学童の話を聴くうちに関心が深まり、3人目の子どもをおんぶしながら学童に顔を出したこともあります。今はヒトノネで個別指導塾や保護者・支援者向けのコミュニティづくりを担当しています。
3人の子育てをしていますが、福祉サービスを利用するほどではないものの、家庭や子どものことでいっぱいいっぱいになり、自分に気持ちを向ける余裕が最近までありませんでした。末っ子が小学生になり、少しずつ心に余裕が生まれ、親にも支えが必要だと気づくようになりました。子どもの立場、保護者の立場、そして支援者としての立場。その3つが重なり、子どもたちを見る視点が少しずつ広がってきたと感じています。
教員をめざした理由には、子どもとかかわる楽しさを体験した原点があります。中学生の時の幼稚園での職場体験は、まさに「子どもと向き合うおもしろさ」を全身で味わった時間でした。同時期に参加した障がい者施設でのボランティアでは、自分でも気づいていなかった“隔たり”を痛感する出来事がありました。今思えば、「遊びに行ってあげている」という思い上がりがあったのかもしれません。そこから「相手を理解しようとする姿勢」の大切さを学びました。
誰にでも「孤立」は訪れうる
子どもも保護者も、ちょっとしたきっかけで引きこもりになったり、働けなくなったりする可能性があり、孤立することは誰にでも訪れうると感じています。不登校や発達障がいのある子は、凸凹な特性ゆえに表に出やすいだけで、生きづらさは誰もが抱える問題です。
働けなくなる人が増えることは、社会にとっても大きな損失になります。先日参加した中小企業の経営者の集まりでは、採用や育成の難しさ、そして定時制高校や特別支援学校の生徒が安心して働き続けられる環境の重要性が語られていました。子どもたちが元気に社会へ踏み出せるかどうかは、社会そのものの力につながると強く感じています。
岐阜市では、中高生が気軽に過ごせる場所が少ないと感じています。部活や塾が居場所になっている子もいますが、そこにつながれない子にとって、日常の中で「自分の居場所」を見つけるのは簡単ではありません。将来について語り合える機会に出会えない子もいます。
小学生には習いごとがあり、大学生以上には選択肢がたくさんありますが、その間の中高生が過ごす場が乏しいことは、未来へのつながりが途切れることを意味します。そこでヒトノネでは3年前に、ユースセンター「クリエイターズ・クラブ」を立ち上げました。中高生が創作活動や人との関わりなどを通して「現在の自分」と「将来の自分」を探究できる場所です。
子どもたちが元気に社会へ出ていくための“居場所”を地域に
子どもたちの未来のために、みんなでみんなを支える仕組みが必要だと感じています。ユース世代は社会に出る直前の大事な時期です。相談できる人がいるか、つながれる環境があるかの有無が、元気に社会へ出ていけるかどうかを左右します。居場所がなくても進んでいける子はいますが、そうではない子も一定数いて、引きこもりの状態になることもあります。中高生の段階で安心して悩みを話せる場所づくりは、社会へ踏み出す上で欠かせないと感じています。
クリエイターズ・クラブでは、誰も「やらなければならないこと」を課されません。学校に行ける子も行けない子も、にぎやかな子も静かな子も、どの子にとっても居心地がよい場であることを大切にしています。必要な子にとっては「やること」があった方が来やすいので、活動や会を用意することもありますが、参加は自由です。ここには日常のやるべきことから離れてもいい“余白”があります。
2025年11月からは、保護者と支援者の交流の場「ヒトノネカフェ」を始めました。これもまた、「みんなでみんなを支える」仕組みづくりの一歩になると考えています。ユース世代の子どもたちとその保護者を、地域で支える環境を少しずつ広げていきたいと思っています。中高生が安心して過ごせる居場所をつくり続けるために、「10代の居場所づくりプロジェクト」の応援をよろしくお願いします。
取材者の感想
インタビューの中で特に心に残ったのは、職場体験に訪れた子どもがヒトノネのことを「なんでもできる、誰でも来られる居場所」と話してくれたというエピソードです。滞在した時間は決して長くはなかったはずですが、それでもそう感じてもらえる空間を提供していることに、ヒトノネが日々つくり出している空気感や関わりの豊かさを感じました。
さらに、私が初めてヒトノネを訪問したとき、代表のはなこさんがなおこさんを「コミュニケーションおばけ(コミュニケーションに非常に長けている)」と紹介していたことも忘れられません。多様な大人がそれぞれの個性を惜しみなく発揮し、子どもたちはその姿に触れながら、自分の生き方を自由に思い描いていく。まさにそんな出会いの土壌となる場なのだと感じました。(長谷川)
清水奈緒子さん:プロフィール
一般社団法人ヒトノネ 理事
横浜国立大学教育人間科学部卒業後、小学校教員として勤務。結婚・出産を機に退職し、3人の子育てをしながら、企業の新人研修サポートやオンライン秘書など、幅広い働き方を経験。
学童保育との関わりをきっかけに、子どもと保護者の支援に関心が深まり、ヒトノネの活動に参画。現在は個別指導塾や保護者・支援者向けのコミュニティづくりを担当している。
一般社団法人ヒトノネは、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」の登録先です。
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