凸と凹「登録先の志」No.23:運上昌洋さん(NPO法人ソルウェイズ 共同代表理事)
地域の課題を見つけて、住みよいまちにしたい
2016年に札幌で開催された、医療的ケア児にかかわる全国の有識者が集まるフォーラムに参加したことをきっかけに、医療的ケア児と家族の支援に携わる活動を始めました。当時は、医療的ケア児を預けられる場所がほとんどなかったため、フォーラムに参加した医療的ケア児の家族からは「初めて子どもと離れて外に出た」という声も多く、「まずはデイサービスから始めよう!」とNPO法人ソルウェイズは設立されたのです。私はアドバイザーとして参画しました。
介護保険制度が始まった2000年頃、地域課題を解決できるシステムをつくりたいと思い、地元の石狩市へ帰ってボランティア活動をするためにNPOを立ち上げたことが、NPOを運営する最初の一歩でした。
正直なところ、自分が生まれ育った石狩市が嫌いで、今も好きではありません。どうやったら好きになれるかを考えて活動しています。やりたいことではなく、地域の課題を見つけることがすごく大事で、テーマはいつも地域の中にあると考えています。商店街や商工会議所など地域活動全般に携わっており、NPO法人はそのうちの一つなのです。
医療的ケア児も、子育ては子育て
医療的ケア児だろうと健常児だろうと、「子育て」は「子育て」であり、「ケア」や「介護」ではないのです。日常生活であり、当たり前なことであるはずなのですが、医療的ケア児と家族は当たり前にできないことも多いのが現状です。
16年のフォーラムに参加した時に、医療的ケア児と家族を支援するサービスがほとんどなく、あったとしても制度上存在しているだけで実態がないという現実を目の当たりにしました。周りの人にヒアリングしたところ、「自分の子が医療的ケア児だったら、少しでもサービスがある札幌市に引っ越す」という声を聞き、どうにかしなければいけないし、自分たちも気づけていなかった部分であることもわかりました。
子どもたちは、地域の未来。高齢者が住みよいまちは未来があるし、子どもたちが成長できるまちにはその先の未来もあります。まちの未来は、「高齢者が住みやすいまち」と「子どもたちが成長できるまち」の両輪が必要だと思っています。国は、全国の障がい児者を自宅やグループホームなどの地域社会での生活に移す「地域移行」を進めていますが、帰った地域で受け入れられる体制ができていないのは矛盾している。だからこそ、ソルウェイズはどんな重い障がいがあっても地域で暮らせるように活動しています。
どんなに重い障がいがあっても、暮らし方を選択できる未来をつくりたい
ソルウェイズはこれまでにデイサービス(5事業所)と訪問看護を展開し、やっと次のステップを模索できる状況になりました。札幌市では子どもたちを預けられる環境は少しずつ整ってきましたが、家族からは「夜まで子どもを見てほしい」とか「18歳以降も過ごせる場所がほしい」という声が寄せられるなど、まだまだ足りていないのが現状です。
「いけプロ(北海道で暮らす医療的ケア児の未来を拓くプロジェクト)」は、どんな重い障がいがあっても、医療的ケアがあっても、地域で暮らせる社会をつくるためのプロジェクトです。その第一歩として、2025年までにショートステイを開所することをめざしています。
実現にはさまざまなハードルがありますが、子どもたちの存在が地域を変えてくれるのではないかと考えています。全国各地のみなさんにアドバイスをいただきながら、まずは私たちの地域で実践してロールモデルにし、他の地域にも情報共有していきたいです。その過程で、医療的ケア児を知ってもらう、かかわってもらうということをしたいので、地域の方や企業にも知ってもらい、地域の仕組みづくりの一環として連携していきたいと考えています。
SDGsの目標年である2030年は、医療的ケアが必要な長女が大学卒業の年齢になります。その時に彼女が一人暮らしをしたいと言ったら、それができる選択肢をつくってあげたい。選択できることが大事だと思っています。
各地域の地域課題に合わせた選択肢をつくっていくために、みなさんも「いけプロ」に参加していただけるとうれしいです。
取材者の感想
「ソーシャルビジネスをやりたいと思って石狩市に戻ってきた。地域課題を解決できるシステムをつくりたい」というお話を聴いて、最初はとても論理的に物事を考えて行動される方なのかなという印象を持ちました。
活動の中で悲しかったことをお訊きすると、「ある重症児のご家族が石狩市にはデイサービスしかないから大きな地域の方がいいということで、家も建てていた中で引っ越していってしまったこと」と返ってきました。一方で、「住みやすいからという理由で石狩に引っ越してくれた人がいた時はすごくうれしくて。どちらの時も泣いた」というエピソードを聴いて、すごく情に厚い方なんだなと、がらっと印象が変わりました。
これほど親身になって考えてくれる方が近くにいらっしゃるのは、とても心強いと思います。運上さんが石狩市を好きになれている頃、どんなすてきなまちになっているかが楽しみです。(長谷川)
運上昌洋さん:プロフィール
NPO法人ソルウェイズ 共同代表理事
北海道石狩市にて紅南小、花川北中、札幌北高卒業。慶應義塾大学卒。長崎にて三菱重工株式会社入社(2000年10月退社)。石狩市に戻り、建築、介護、福祉の事業にて起業し、地域活動やNPO活動に従事する。
04年6月NPO法人北海道環境推進センター設立。06年1月有限会社アット代表取締役就任。08年1月NPO法人ソルウェイズ監事、4月理事就任。08年7月NPO法人さっぽろ住まいのプラットホーム理事、事務局長就任。12年12月一般社団法人いしかりユニバーサルネット代表理事就任(20年3月退任)。15年2月一般社団法人福祉住環境アソシエーション理事就任。16年4月一般社団法人あんしん住まいサッポロ監事就任。17年1月NPO法人ソルウェイズ副代表理事就任、現在共同代表理事。19年4月一般社団法人全国重症児者デイサービスネットワーク副代表理事就任。
その他、石狩商工会議所常議員、花川中央商店街振興組合理事長、札幌市立北翔支援学校PTA会長、いしかり医療と福祉のまちづくり広場副代表、北海道地域福祉学会理事など。
資格は、福祉住環境コーディネーター、福祉用具専門相談員、二級建築士、二級建築施工管理技士、社会福祉士、介護支援専門員、相談支援専門員、食品衛生責任者、サービス管理、児童発達管理責任者など。
現在、4人の娘の父親であり、長女(中3)、次女(小2)が医療的ケアが必要な子である(三女3歳、四女2歳)。
NPO法人ソルウェイズは、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」の登録先です。
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