凸と凹「登録先の志」No.22:野村順子さん(一般社団法人あゆみ 代表理事)


アットホームな保育園に惹かれた


千葉県生まれで、4歳のころに熊本に来ました。大学で栄養士の資格を取りましたが、栄養士は資格を取ってからしか就職先が決まらないので、地元の銀行の採用試験を受けました。そのまま銀行に就職し、同僚と結婚。転勤で東京に行き、出産後は子育てサークルへ参加するように。支えられる側から入って支える側に回るという典型的な道を歩みました。

それからも転勤は続き、熊本に戻った後はシンガポール、その後大阪に行きました。尼崎で子ども劇場のNPOの立ち上げにもかかわりました。再び熊本に戻ってきた際、お母さんたちから子育て支援の愚痴を聴いたことをきっかけに、自分で活動していこうとNPOを立ち上げました。

東京に転勤した時は子どもがまだ0歳でした。そのころに横浜にある家庭的保育室の事例を知り、連絡して保育園の見学に行ったことがあります。心細い育児をしていた時だったので、アットホームな雰囲気にすごく惹かれました。保育園は自分たちに参入できるものではないと思っていましたが、2015年に制度が変わったタイミングで、株式会社をつくって参入することに決めました。


職員さんたちが愛情をたくさん与えてくれることが、子どもたちの将来につながる


その後、障がい児にも対応するために、放課後等デイサービスを始めました。国の人員配置基準通りだと職員数が少ないと感じましたが、家庭的保育室のように職員さんを手厚く配置したいと思いました。職員さんが子どもたちの変化をすごく感じられて、職員さんにとっても子どもたちにとってもよいと考えたからです。

実際に運営してみて、職員の方が子どもたちよりも多い状況をつくれることがわかりました。重症心身障がい児(重症児)向けのデイサービスを行う「あゆみ」を始めたのも、専門職によるマンツーマンの療育支援を通して、アットホームな場をつくることができるからでした。

一緒に働く職員さんたちには「すぐに結果は求めないでいこうね」といつも話をしています。同時に「職員さんたちが愛情をたくさん与えてくれることが、子どもたちの将来につながるから。あきらめないでやっていこう」と伝えるようにしています。


親御さんの不安を和らげるために、熊本モデルをつくりたい


子どもの分野から始めましたが、今後は成人分野で、障がいのあるなしに関係なく、全世代の方をお預かりできるようになっていきたいと考えています。例えば、障がいを持つ方のご家族が急な冠婚葬祭等で子どもをどこかに預けたいと思っても、重症児者に関しては、預けられるショートステイ等がまだまだ数が足りません。また、自身が亡くなった後や病気になった時の不安を抱えている親御さんも多くいらっしゃいます。そうした不安を和らげるために、これから1~2年の間に預けられる施設をつくっていきたいですし、今後ますます必要になってくるのではないかと考えています。

中には、自分たちでつくりたいと思う親御さんも出てくるかもしれません。そのためにも、モデルをつくり上げることが必要だと思っています。「熊本モデル」としてよいモデルができたら、普及できるのではないでしょうか。

新型コロナをきっかけに法人の経営を改めて見返した時に、これまでは内部留保がほとんどできていなかったことに気がつきました。その分はすべて人件費に充てていました。重症児者をお預かりするには、職員みんなが専門職であることが求められ、金額的にも安くありません。そんな中で「自分がやらないといけない」という使命感を持った職員さんが来てくれていることに支えられています。当事者とその家族が安心して暮らせる未来を実現するために、みなさんのお力添えをいただければ幸いです。


取材者の感想


インタビューを終えてまず思ったのは、「職員さんをすごく大事にされていて、どんなに大変でもあきらめない方なんだな」ということでした。

今回のインタビューには、順子さんとともに活動しているパートナーの公禎(きみひさ)さんにも同席いただき、途中こんな話をしてくれました。最近、仕事観について職員にインタビューした際、「いつもニコニコ働いてくれているけど、モチベーションは何なの?」と訊いたら、「自分の子どもの成長はもちろんだけど、他人のお子さんを預かって、その子の成長を感じられることがうれしい」というコメントがあったそうです。そのエピソードを、順子さんもとてもうれしそうに聴いていた姿が印象に残っています。

順子さんは個人としてもさまざまなご家庭の支援にかかわっていて、「複雑な家庭がほとんどで、どうにもならない家庭もたくさんあるけれど、10件に1件でも支えられるなら続けていきたい」と語っていました。そんな“あきらめない”順子さんだからこそ、重症児者とご家族が安心して暮らせる未来の実現に向けた今回のプロジェクトも、一つひとつ着実に歩みを進めていこうとしているのだと思いました。(長谷川)


野村順子さん:プロフィール


一般社団法人あゆみ 代表理事/株式会社はぐくみ 代表取締役社長

高校より福祉施設のボランティアを行う。2014年に帰熊し、地域の母親たちと地域課題を解決するNPO法人を設立。親子の居場所づくり【子育てサロン】運営等。その後、母親の就労支援【職業訓練校】設立運営し【熊本県民交流パレア】を指定管理で受託。現在は株式会社と一般社団法人で、子ども福祉、障がい児・者福祉の事業をする傍ら、20年来のNPO活動の一環で子ども食堂の運営や災害支援等、地域活動を行っている。




一般社団法人あゆみは、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」の登録先です。

凸と凹マガジン

社会課題という地域の「穴(凹)」を、 みんなで「埋める(凸)」勇気を育むウェブマガジンです。 “志金”循環の新たな仕組み「凸と凹(でことぼこ)」の登録先が、 社会課題の解決に挑む志を共有しています。 https://deco-boco.jp/