凸と凹「登録先の志」No.35:岡本智子さん(認定NPO法人コクレオの森 理事・事務局長)


間違ったことを言いたくなくて黙ってしまう、日本の子どもたち


以前は建築の仕事をしていて、青年海外協力隊の建築隊員としてモロッコへ行きました。帰国後、協力隊の体験談を日本の中学校や高校で話す機会がありました。5、6時間目に授業を担当することが多く、眠くならないようにコミュニケーションをとりながら、授業を進めていましたが、子どもたちに質問しても誰も発言しません。間違ったことを言いたくない感じがしました。モロッコのことを知る日本人なんて大人でも少ないので、興味や関心を訊いてくれたらいいと思ったのですが、それが難しい日本の子どもたち。その体験から教育に少し興味を持ち、国際理解教育や参加型学習を学び、フェアトレードの講座等を地元の市民活動センターで行うようになりました。

2人目の子どもが待機児童になり、その疑問を市民活動センターの人に話していると、その思いを市民活動につなげたらどうかとなり、5年ぐらい活動しました。ただ、市民活動をずっと続けられるような恵まれた状況ではなかったので、働きたいと思っていました。そこからコクレオの森(以下、コクレオ)につながりました。

市民活動センターで開催されたファンドレイジングの講座に参加した際、たまたま隣に座ったのがコクレオの現・代表理事のみほさん(藤田美保さん)でした。その場で「事務ができますか?」と訊かれ、「働くなら見学に来てください」と言われ、市民活動センターの人と行きました。その時は「市民が創っている学校」をあまり理解していなかったのか、どんな見学をしたのかあまり覚えておらず。見学して真っ先に言われたのが「働くなら、会員になってください」だったことはよく覚えています。


子どもたちが主体的に学ぶ教育を求める人が増えている


そんな経緯で、コクレオが運営する箕面こどもの森学園の事務スタッフになりました。私がコクレオで働き始めた頃、子どもは全校で50人弱ぐらいでした。数年のうちに子どもの数が増え、現在はどの学年も欠員なしで70名ほどの子どもがいます。子どもを尊重し、子どもたちが主体的に学ぶ教育を求める人が増えていると実感しています。

この体験をこの学校に通う子どもたちだけにとどめたくないと思い、この教育をどうにか広められないかと常々考えていますが、なかなか人的資源にも限界があり、外向きの発信は思うようにいっていません。学校に直接かかわらない人たちにどんな影響があるのかを伝えづらいからです。

子どもたちが子どもらしく生きられること。子どもたちが社会を創っていくことを、学校の中で学べること。自分たちがやりたいことを考えて大人に相談して、自己実現も自己決定もしていけること。これらが私たちの学校「箕面こどもの森学園」の特徴です。

コクレオを理解している人たちはこの教育がよいと言ってくれますが、公立学校の先生たちにコクレオっぽいことを話しても、あまり理解してもらえないことがあります。私自身、自分の子どもの中学校のPTA会長をしていますが、コクレオ目線で公立学校にかかわると違和感を覚えることがたくさんあります。言葉で表現できていないところを、言葉にして表現していかなければいけないと感じています。


社会により発信するための2校目の私立学校設立


ある時、私の子どもの公立学校で生徒会選挙があって、そのことを担う人について息子が他人事のように話していて、どうしてかを尋ねたら「学校のことを変えようと思う人もいるけれど、実際には変えられない」と話していました。最初からあきらめてしまっている感じです。

コクレオでは、みんなで学校をつくるというスタンスなので、基本的にはみんなで考え、対話する文化があります。「みんな」というのは大人も子どももです。一般的な学校の先生は成績をつける人、評価する人になるけれど、箕面こどもの森学園では評価をしないので、気兼ねなく何でも言えるのではないかと思います。

今、2校目をつくろうと動き出しています。新しい学校は私立学校として認可申請予定です。20年やってきたことが私立学校という形になることによって、社会に対してより発信できるようになり、公立学校や公教育に影響を与えるのではないかと思っています。私たちの学校に通う子どもたちだけに限らない、現在、そして未来の子どもたちにかかわる取り組みを、ぜひ応援してください。


取材者の感想


岡本さん(「おざともさん」と呼ばせていただいているので、以下おざともさん)は、コクレオの森にかかわった当初、あまり深みにはまっていかないようにと思っていたそうです。コクレオのメンバーは熱意を持って学校を創っている人たちばかりで、自分は立ち入ることはできないと思っていたからでした。

インタビューの中でもありましたが、コクレオの方針を理解していただける公立学校の先生がまだまだ少ない中で、おざともさんのような、ご自身の子どもが公立学校に通い、公立学校寄りの活動をしている他団体にもかかわり、いろいろな角度から教育を見ている人はとても貴重な存在だと思います。

「言葉で表現できていないところを、私が言葉にして表現していかなければいけない」という言葉から、おざともさんも、いつのまにか熱意を持って学校を創るメンバーのひとりになっていることを感じました。(長谷川)


岡本智子さん:プロフィール


認定NPO法人コクレオの森 理事・事務局長

建築学科の短期大学を卒業後、建築設計事務所に就職。30代になる直前に青年海外協力隊に参加。その後、建築の仕事に戻るが、仕事をペースダウン。出産、市民活動を経て2017年よりNPO法人コクレオの森の事務スタッフとなる。

21年からは箕面こどもの森学園の2校目の設立をめざし、ファンドレイジングを担当。22年には団体の理事に就任。




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