凸と凹「登録先の志」No.25:尾籠信義さん(認定NPO法人光楽園 理事長)
こどもをまんなかにすえた地域をつくりたい
大学での専攻は地域経済学でした。地域のフィールドワークに参加する等の経験を通じて、地域づくりにかかわる仕事がしたいと思うようになりました。大学院で勉強を続けようと思いましたが、語学が苦手で受験に失敗。その後、地元に帰って生協に就職。生協を選んだのも、生協の活動を通じて地域づくりがしたいという思いからでした。でも、商品開発の部署に配属され、残念ながらその思いは実現しませんでした。
そんな中、2003年に大きな転機が訪れることに。私の妻が「自宅の横で一時預かりの託児所がしたい」との相談を持ち掛けてきました。私たちの次女が生まれたのは助産院だったのですが、その助産院は出産したお母さんたちの子育てサロンのような場になっていました。そこでよく話題になっていたのが「こどもを一時的に預ける場所がほしい」だったようで、「お母さんたちの力になりたい」という思いからの発案でした。私も安易に「やってみたら」と答えてしまい、04年から自宅を改装・増築して一時預かりの託児所をスタートすることになりました。これが光楽園の始まりです。
その後、紆余曲折しながらも預かるこどもが少しずつ増え、ほとんどが月極保育となったこともあり、12年に古民家を購入・改装して認可外保育施設「おひさまいっぱい光楽園」を立ち上げて移転という流れに。その間、私自身は生協の仕事を続けながら、ずっと事務局的な立ち位置でかかわっていましたが、徐々におもしろくなり、16年に思い切って生協を退職。理事長という立場で本格的に活動に参加するようになりました。
生協を退職した理由は大きく2つ。1つ目はとにかく楽しかったこと。生協で仕事をしながら事務局を担っていた時はほぼ休みなしの状況が続いていました。でも、この活動にかかわっている時間は本当に楽しく、中でも認可外保育施設を立ち上げる際に保護者のお父さんたちと力を合わせて園の砂場や外柵を自分たちでつくった日々はいい思い出になっています。2つ目は、こどもの輝きのすばらしさに魅せられたこと。さまざまなこどもといろんな場面で触れ合う中で、たくさんのキラキラした笑顔や輝きに出会い、どんどん引き込まれていきました。また、児童発達支援施設や放課後等デイサービスを立ち上げてその連携を進めたり、行政機関や地域の団体と関係を結んだりという仕事もやりがいがあり、大学で地域経済(地域づくり)を勉強した意味はここにあったのだと感じました。
北九州市の自然豊かな環境をこどもの五感の育ちに活かしたい
こどもの五感が育つには、豊かな自然環境の中で遊び、自然体験を積み重ねていくことが重要と考えています。光楽園の各施設の活動は、常に自然豊かな環境で展開するようにしています。北九州市は広く、身近な場所でも自然豊かな環境や空間がたくさんあり、散歩や園外活動等で積極的に活用させていただいています。(日本有数のカルスト台地平尾台にも頻繁に連れていっています。)現在のこどもたちはスマホやタブレット、ゲーム等のデジタル機器に触れる時間が大幅に増加しており、豊かな五感や生きる力を伸ばす機会や時間が減っていると感じています。この環境を最大限生かしながら、こどもたちが自然に触れ、さまざまな体験ができる機会をさらに増やしていきたいと考えています。
一刻も早く孤独な子そだてをなくすために
こどもを取り巻く状況は厳しくなってきていると感じます。こどもの貧困、虐待通報の増加、発達障がいのこどもの困りごとなど、さまざまな課題がありますが、こどもを支えていく家族や地域の関係も希薄になっていて、「孤独な子育て」=「孤育て」という状況が一般的になってしまっています。
「孤育て」状況の中では、親が完全にキャパシティオーバー状態で余裕がなくなり、こどもの課題が解決に向かわず、問題が深刻化する悪循環が進みます。一刻も早く、そんな親や家族を丸ごと受け入れ、地域の多くのみなさんと力を合わせながら子どもを支えていく社会づくりを実現したいと考えています。そんな思いがあり、光楽園は2023年7月に認定NPO法人となりました。みなさんからの寄付や支援を力にしながら、孤育てといわれる状況をなくし、北九州の自然環境を活かしながら、こどもたちがのびのびといのちを輝かせる地域社会をつくっていきます。
取材者の感想
最近『子どもまちづくり型録』という本に出合いました。こどもたちが外で遊び、いい人間関係の網の目の中で育つ、まちづくりのヒントをまとめたもので、尾籠さんのお話とシンクロすることがたくさん載っていました。
本のまえがきには、「子どもが幸せであるかどうかが、社会が健全でうまくいっているかどうかの証」というスローガンが、1996年の第2回国連人間居住会議で掲げられていたことが書かれていました。
日本のこどもたちは幸せな状況なのでしょうか。ユニセフが2020年に公表した報告書によると、日本のこどもの幸福度は先進38か国中20位。精神的幸福度については38か国中37位と、ほぼ最下位となっています。これでは健全な社会とはとても言えません。「こどもの成長スピードはとても早いからこそ、この状況を急いでなんとかしないといけない」と行動されている尾籠さんたちの姿に感銘を受けました。(長谷川)
尾籠信義さん:プロフィール
認定NPO法人光楽園 理事長
1990年横浜国立大学経済学部卒業。エフコープ生活協同組合に入職し、地域担当、商品企画、非食品事業部長等を担う。2004年に妻が自宅横でみんなの託児所光楽園を開所し、その施設運営や事務方の仕事を手伝うことに。12年に認可外保育施設おひさまいっぱい光楽園を開所。14年にNPO法人光楽園を設立し、おひさまいっぱい光楽園の組織母体とする。15年理事長に就任。16年にエフコープを退職し、光楽園の活動に専念することとなる。17年児童発達支援施設みんなの光楽園を開所し、発達障がい等の困りごとや生きづらさを抱えるこどもたちへの療育に取り組み始める。18年おひさまいっぱい光楽園が認定こども園(地方裁量型)となる。20年児童発達支援でかかわったこどもたちを継続的に支援することを目的に放課後等デイサービス事業所みんなの光楽園を開所(22年に移転)。23年7月、次のステップに向けて光楽園が認定NPO法人となり、今に至る。
認定NPO法人光楽園は、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」の登録先です。
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