凸と凹「登録先の志」No.20:鈴木篤さん(NPO法人寺子屋方丈舎 フリースクール担当職員・理事)
途上国における貧困問題の理不尽さが許せなかった
ぼく自身は学生時代に不登校を経験することはありませんでした。高校の授業で途上国の貧困問題を知って、理不尽さを強く感じました。その影響もあって大学では、日本で使い終わったハーモニカ等をフィリピンのスラムやストリートチルドレンに届け、音楽教育を行う学生サークルで活動しました。
「こども」「貧困」「教育」といったワードが自分の中でつながり、こどもの貧困問題にかかわりたいと思うようになりました。そのための大学院に進む準備もしていましたが、ゼミの先生から「研究者よりも実務者の方が向いているのでは」という言葉をかけられたのがきっかけとなり、研究者をめざす道は断念しました。
大学卒業後は民間企業で働いたこともありましたが、転職して困窮世帯のこどもの学習支援を始めました。学習支援を通してこどもたちの話を聴くことで、彼ら・彼女らの気持ちが少し楽になることはあったかもしれないけれど、根本的な解決にはつながらないなと感じました。自分自身も多様なこどもの学び方を知りたいと思うようになり、寺子屋方丈舎(以下、方丈舎)に入りました。教育の場に合わせてこどもを変えていくのではなく、こどもたち一人ひとりにフィットする学びの場をつくりたいと考えています。
こどもの社会参画が必要
方丈舎は「こどもの社会参画」をミッションにしています。社会参画とは「自分で考えて、自分で決定する」ことだと思っています。それだけ聞くと自分のことしか考えていないように思われますが、社会参画は他者がいるからこそできることだと思います。「自分もよくて他者もよい」ということがどんな状態なのかを考えられるようになるためには、社会参画が必要です。
自分が主体であることを前提に、自分と他者のよりよい関係を学んでいくプロセスを経験することが、こどもたちには大切です。そのプロセスを経て社会に巣立っていく方丈舎のこどもたちは、地元に残って地域社会の一員として暮らしていく子が大半です。地元のみなさんに応援いただくことは、地元の未来をつくることだと考えています。
中学の頃からフリースクールに通い始めたある子は、いじめもなく、人間関係において何か決定打があったわけでもなく、学校に合わせるのが苦しくて学校を飛び出しました。来た当初はスタッフが何を考えているのかを踏まえて行動している感じがありました。ワークショップを何度かやっていく中で、「ああしたい」「こうしたい」という本人の主張が出てきました。将来の目標がなかったところから、将来の暮らし方をイメージできるようになりました。「自分の人生を自分で決める」というプロセスを経験できたことが大きかったと感じています。
こぼれるこどもをすくい上げることが大事
こどもたちが学校以外の場を選択したい時に選択できることはもちろん大切ですが、選択した場でも多様に学ぶことができる機会が重要だと感じています。そのためには、ただ単にフリースクールを運営するだけでなく、こぼれるこどもたちをすくい上げるプログラムが必要です。それに方丈舎だけで取り組むには限界があります。地元の企業や何かしらの能力を持っている方等にご協力いただくことで、こどもたちの興味に添ったプログラムを提供することができます。
また、学校以外の学びの場を選択したくても、ご家庭の困窮状態や経済事情で難しい場合もあります。フリースクールへ通うために必要な費用のすべてをサポートすることは難しいですが、最低限を保障する仕組みは必要です。だからこそ、2023年度から開始する「地域連携によるこどもの社会参画プロジェクト」にいただいた“志金”の一部は、そのようなこどもたちへの奨学制度として活用したいと考えています。
不登校のこどもが増えている背景として、貧困問題が絡んでいるケースも増えています。これまではフリースクールとしてご家族からの利用費等を原資に精一杯対応してきましたが、こどもたちが社会参画できる機会をもっともっとつくっていくために、みなさんにこのプロジェクトを応援いただきたいです。
取材者の感想
わたしも学生時代にフィリピンで3週間過ごし、国際協力の活動に少し携わった経験があるのと、教員の免許を取得するために教職課程を専攻していたため、あつしさんのお話は共感するポイントが多くありました。前のめりになりすぎてしまい、インタビューというよりもディスカッションに近い形でいろいろと質問してしまいました。
お話の中で「アンラーニング(※)」という言葉も出ていました。「学校に行けない=ダメなこと」ではなく、学校に行かないといけないわけではない。「こどもの多様な価値観を受容するには、大人が多様な価値観を持っていないとできないのでは」という言葉がとても響きました。
こどもの成長はとても時間がかかるからこそ、方丈舎に通ったこどもたちが将来どうなっていくのかを一緒に見守っていきたいなと感じました。(長谷川)
※これまでの価値観や知識を見直しながら取捨選択し、その代わりに新しいものを取り込むこと
鈴木篤さん:プロフィール
NPO法人寺子屋方丈舎 フリースクール担当職員・理事
2013年中央大学総合政策学部政策学部卒業。在学中に、フィリピンの困窮層のこどもの音楽教育の活動や、東南アジアの貧困に関する研究を行う。卒業後、冠婚葬祭企業にて結婚式司会・葬儀施工に携わった後、宮城県のNPO法人で困窮世帯のこどもの学習支援事業を担当。
こどもの学習支援の場でさまざまなこどもの生きづらさに触れ、中でも不登校に関する悩みに多く直面する。そこで、「学びの場の形に合わせてこどもを変えていくのではなく、こどもの形に合わせて学びを提供できる仕事をしていきたい」と考える。
2019年にNPO法人寺子屋方丈舎へ入職。以降、会津若松市内のフリースクールの運営を行いながら、2021年に理事就任。現場でのプログラム運営の他、通信制高校業務や学校連携業務、ケース支援の業務を担当する。
NPO法人寺子屋方丈舎は、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」の登録先です。
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