凸と凹「登録先の志」No.10:熊田朋恵さん(NPO法人ORGAN 理事)
愛着を持っている岐阜の魅力を次世代に伝えたい
声をかけられて岐阜のNPO「G-net」にかかわるようになったのは大学3年生の時でした。当時、芸術大学に通っていたことから、後にORGANの理事長になる蒲さんとフリーペーパーをつくることに。その後、G-netから独立する形でORGANが立ち上がり、蒲さんが岐阜市の伊奈波神社の近くに住まいを持った時にイベントに呼ばれたことがきっかけで、私もかかわるようになりました。土日にメンバーで集まっては飲んで過ごすという日々でした。
大学卒業後は、印刷会社に就職。お菓子のパッケージをつくることがメインの会社で、仕事を通して地方の観光の様子も見聞きしてきました。印刷会社で仕事をする一方、ORGANには理事としてかかわってきました。体験型イベント「長良川おんぱく」の立ち上げの頃は、岐阜の魅力ある人たちがお持ちの技術を「イベント」にするためにはどうしたらいいかを一緒に考える場をつくりました。また、有志で発足した「おんぱく写真部」のメンバーとして、プログラムの記録撮影やSNSでの発信も行ってきました。
そしてこの春、新卒からずっと働いてきた職場を退職し、ORGANに転職することに。生まれも育ちも岐阜で、ずっとデザインの仕事をしてきました。岐阜に愛着を持っていて、豊かに、楽しく暮らしていきたい。印刷会社での業務の延長線上にそんな未来がなかったわけではないですが、どこにでもあるお土産のパッケージをつくる仕事ではなく、もう少し直接的に地域の魅力を伝える活動をやりたいと思いました。
実は、蒲さんや他の理事からは「職員にならないか」と2~3年前から声をかけられていました。転機になったのは、新型コロナウイルスでした。勤務先に行けないようになり、時間ができたことが考えるきっかけに。いろいろなきっかけがあっての転職だと思っています。
誰にでもある暮らしの中に、魅力的なものがあり続けてほしい
ORGANは、2020年度に初めて岐阜市のふるさと納税の仕組みを活用し、長良川流域文化の“絶滅危惧種”の現状を調査・取材して『長良川流域文化レッドデータブック』を編集発行するプロジェクトを立ち上げました。レッドデータブックを製作するなかで、長良川流域文化に携わる約30名へのインタビューを実施しています。お一人お一人からじっくりお話を伺うと、これからも技術やモノを伝えていきたいと思っている方ばかりであることがわかりました。でも、長良川流域文化に携わるすべての方とコンタクトが取れているわけではないので、仕事を続けてももうからないし、自分の代で終わりでいいやと思っている方もいるのではないかと感じています。
「暮らし」は誰にでもあるものです。その中に魅力的なものがあり続けてほしいと思っています。長良川や工芸品の美しさを実感しているからこそ、長良川が長良川であり続けてほしい。まずは知っていただくということが第一歩なので、発信し続けることが自分の役割だと思っています。今回のレッドデータブックもその一つです。
提灯がない盆踊りを想像できますか?
工芸品はどうしても自分の生活と遠いものと思いがちです。だけど、お祭りに行った時には必ず提灯があるし、歌舞伎の世界では和傘がないとできない演目もあります。提灯がない盆踊り会場って、想像できないですよね。ほとんどの方が気づいていないけれど、実はないと困るもの。あるのとないのとでは、風景ががらっと変わってしまいます。
私が新卒の頃から長くORGANにかかわり続けられているのは、おもしろいと思うことをORGANがずっとやり続けているからだと感じています。自分がおもしろいと思えるから、ずっとかかわっていられる。でも、かかわり続けてもらうことはORGANの課題です。私はORGANの店舗にも近い距離で暮らしているので、かかわりやすさはありますが、少しかかわりを持っても、その後通り過ぎていった人たちがたくさんいて、もったいないなと思っています。
今、レッドデータブックをプロボノのみなさんとつくっている中で、仲間のつくり方が少しずつ見えてきました。問題意識を役職員も含めて共有しながら、新たな仲間を募っていきたいです。
取材者の感想
2021年4月からORGANに転職される熊田さん。ORGANにこれまで欠けていたハブみたいな機能を期待しているという周囲の声が挙がる中で、今後の意気込みを伺うと、「一緒にやってきたメンバーでも巻き込めていないところがあるので、全体を把握して足りていない部分をカバーしたいと思っている」と頼もしい答えが返ってきました。
「愛着を持っている岐阜の魅力を次世代に伝えたい」とストレートに伝えられる熊田さんは、本当に岐阜や長良川流域文化に愛と誇りを持っていて、ORGANがめざしているのは熊田さんのような方を地域に増やしていきたいということなんだなと感じました。
次世代に遺したいと思えるものと出会えること、心を震わせられること自体が、とても幸せなことなのではないかと感じさせられるインタビューでした。(長谷川)
熊田朋恵さん:プロフィール
NPO法人ORGAN 理事(2021年4月より常勤職員)
1981年岐阜市生まれ。名古屋芸術大学デザイン科卒業。大学3年の頃から学外での活動に目を向け、ぎふアジア映画祭のボランティアスタッフや当時柳ヶ瀬でイベントを行っていたG-netに参加。G-netではフリーペーパーORGANの創刊にも携わる。大学卒業後は岐阜県内の印刷会社にデザイナーとして勤務。全国の食品や観光土産のパッケージデザインを担当。その傍ら、ORGANの理事としてかかわる。ORGANではORGANキモノ部、おんぱく写真部、長良川レッドレータブック編集など多分野でサポート。2021年4月からはORGAN常勤職員として勤務。
NPO法人ORGANは、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」の登録先です。
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