凸と凹「登録先の志」No.27:我妻英司さん(認定NPO法人うりずん 事務局長)
心に傷を負っている人たちをほっとけなかった
大学卒業後、サラリーマンをしていましたが、学生時代からイギリスに惹かれていて、語学留学で渡英しました。高校時代から西洋史、特にヨーロッパ近代史に興味を持ち、近代日本に良きにつけ悪しきにつけ多大な影響を及ぼしたイギリスという国家が気になったことが惹かれた理由でした。英語を学ぶ傍ら日本語教授法を学びイギリス人に日本語を教える仕事もしていました。
イギリス滞在中に、太平洋戦争中の東南アジアで旧日本軍の捕虜となった英米人が、心に深い傷を負い苦しんでいることを知らされました。その時の自分の立ち位置は、広島の原爆被爆者の苦悩を知ってしまった戦後世代のアメリカ人に似ていたかもしれません。まさに、ハンマーで頭を殴られたような衝撃でした。
一方、東南アジアを植民地化し、地元民に多大な苦悩を強いたイギリスに加害の側面があることも事実です。平和な世界構築のために、自分にできることは何かを考えて悶々としていた時に、元捕虜の心のケアをしている団体があることを知り、ボランティアに参加しました。それが、日本帰国後のアウシュヴィッツ平和博物館(福島県白河市)での活動へつながりました。博物館では、子どもたちに戦争の悲惨さを訴え、平和な世界をつくることの大切さを伝える活動に力を入れました。東日本大震災後、福島での活動が難しくなり、10年間働いた博物館を退職することになりました。
その後、博物館の役員を通じて認定NPO法人とちぎボランティアネットワークに1年間の期限つきで入職し、生活困難者向けの電話相談員と認定NPO法人を取得するためのキャンペーンを担当しました。そこでキャンペーンに参加していたうりずんと出会いました。高橋理事長の思いに共感し、10年前に事務職員として入職し、2016年の事業所移転と同時に事務局長になりました。
イギリスで暮らした経験があったからこそ「困難な中にある人たちの思いをうかがい、寄り添い、共に生きることが大変魅力的」だと感じるようになり、それが今のうりずんの仕事にもつながっていると思います。
「支援する側、される側の垣根が取り払われ、共に生きている」感覚や「楽しむ」感覚を共有したい
うりずんに入るまでは医療的ケア児の存在をまったく知りませんでした。入職当初は事業所も狭く、子どもたちと同じ部屋で過ごしていたので、事務の仕事をしながら一緒に歌を歌ったりして、それがとても楽しかった。支援する、ケアをするというよりは一緒に楽しむ、幸せな気持ちになるという感覚でした。
医療的ケアや重い障がいのあるお子さんの笑顔に、心癒されることが多々あります。もちろん、健常児の笑顔もかわいいですが、より厳しい状況にありながら笑顔を見せてくれる、その姿に感動しているからかもしれません。うりずんの理念である「障がいがある人もない人も共に助け合える社会の実現」を表している瞬間のように思えます。スタッフもまたすてきで、いつも笑いが絶えず、とにかく子どもたちを楽しませるし、自分たちも楽しんでいるのがすばらしいなと感じます。髙橋理事長の気さくで楽しい雰囲気がスタッフにも伝播しているようです。
髙橋理事長は「重い障がいを持つお子さんが生まれてくることは、どこの家庭でも起こりうること。そうではない大多数の方が『自分には関係ない』と放置してよいのか。自分のこととして考える必要があるのではないか」と言っています。私もそう思います。
ただ、それだけではなく、医療的ケア児とご家族が地域の中で活き活きと暮らすことができることは、社会全体がよくなることにつながると考えています。人びとの理解と共感が生まれ、温かさの輪が広がる社会は、誰にとっても暮らしやすい社会となります。髙橋理事長の持論である「支援する側、される側の垣根が取り払われ、共に生きている」という感覚や、うりずんの「楽しむ」感覚をもっとたくさんの方と共有できたらいいなと思います。
うりずんの新しい挑戦がスタートします
うりずんではこれまでも、医療的ケア児一人ひとりに寄り添うマンツーマンのお預かり体制(手厚い人員配置)を実現するために、支援者のみなさんから寄付を募ってきました。しかし、今回WILLに参加して、それだけでは足りないという思いを強くしました。
医療的ケア児に関しては法制化が進み、制度も少しずつ充実してきて、事業所の数は増えています。しかし、さまざまな事業者が参入することになり、中には「医療的ケア児向けの事業はもうかる。子どもたちをただ寝かせておけばいい」などと言う利益優先の事業所も増えていて問題だと感じています。適正なケアを実施することで、子どもたちが楽しみ、成長につながることを、他の事業所に広めていくことをすぐにも始めないといけません。
同時に、地域にも目を向けていきたいと考えています。利用者のご家族からは「外出の際、たんの吸引は音が出るのですごく気を遣う」という話を伺っています。安心して出かけられる場所が少ないことで、医療的ケア児の家族が自分らしい生活を送れないと、精神的にも追い詰められてしまいます。気軽に安心して出かけられるお店等が増えれば、家族がリフレッシュできる機会が増えます。そのために、医療的ケア児と家族への理解を地域で広めるための活動にも着手します。
うりずん16年目の新しい挑戦を、ぜひマンスリーサポーターという形で応援してください。
取材者の感想
オンライン越しでも伝わるほど、ものすごく緊張した様子でインタビューに答えられていた我妻さん。ご自身のことを語る際、うりずんの活動とつながらないのではないか…と心配しながらお話されていました。でも、「心に傷を負っている人たちをほっとけなかった」という我妻さんのスタンスが今の活動につながっていることを、しっかりと感じることができました。
スタッフがみんなすてきで、とうれしそうに目頭を下げながら話されていたことが、印象に残っています。あまりに緊張して言いたいことがまったく言えなかったと、インタビューをした日の夜中に言いたかったことを記した長文のメールが届いたのを見て、熱い思いを秘めた方なんだと伝わってきました。(長谷川)
我妻英司さん:プロフィール
認定NPO法人うりずん 事務局長
1988年、東洋大学経済学部卒業。サラリーマン生活を経て94年渡英。英語を学ぶ傍らSOAS(ロンドン大学東洋アフリカ研究学院)で日本語教授法を学び、シティバンク銀行、モルガンスタンレー証券等、主に在英金融機関の日本語教育に携わる。98年に帰国後、アウシュヴィッツ平和博物館に入職、学芸部門と海外通信を担当。2012年、東日本大震災の影響により同館を退職し、認定NPO法人とちぎボランティアネットワークに1年間の期限付きで入職。同団体の認定NPO法人取得支援事業を担当中に、うりずんと出会う。13年3月に同団体在籍のまま業務委託でうりずんの事務を担当。同年4月、うりずんに事務職員として入職。勤務の傍ら、日本社会事業大学通信教育課程で学び、15年4月に精神保健福祉士資格を取得。16年より、うりずん事務局長。
認定NPO法人うりずんは、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」の登録先です。
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