凸と凹「登録先の志」No.18:運上佳江さん(NPO法人ソルウェイズ 共同代表理事)
まさか自分の子に障がいが、、、
初めて出産した子ども(みゆちゃん)は発達が遅く、6か月の時に障がいがあることがわかりました。まさか自分に障がいのある子が産まれるとは、思いもしませんでした。産後すぐに職場復帰するつもりで保育園を探し始めましたが、障がいがあると預けられる保育園はありませんでした。
預けられる保育園がないということは、働くことをあきらめなければなりません。最初は「仕方ない」「母親としてこの子に人生を捧げないといけない」と思いました。一方、そんな状況をつらいと思ってしまう自分もいました。「薬剤師の仕事を続けたかったのに、なぜできないのだろう」と…。
重い障がいがある娘と家に閉じこもり、どんなふうに遊んであげたらよいのかわからず、初めての育児と介護に戸惑い、ただただ抱っこして涙を流すだけの日もありました。しかしある時、娘が生まれたせいにしていた自分に気がつき、自分も変わりたいと思うようになったのです。気分転換にパートの仕事をやってみたり、育児書には載っていない育児も自分なりに切り拓き、2人目の子ども(みくちゃん)が無事に生まれた時はとてもほっとしたことを覚えています。安堵したのも束の間、翌日、みくちゃんもみゆちゃんと同じ障がいがあることがわかり、愕然としました。
みゆちゃんの障がいには遺伝性がないと聞いていましたが、実は遺伝性があることが判明したのです。病院の方からは、出生前診断では障がいはないだろうと判断していたことを謝られて「みくちゃんを病院から連れて帰りますか」と訊かれ、施設に預けることも提案されました。みゆちゃんを育ててきた経験から、特に生後半年ほどはただただかわいい赤ちゃんだということはわかっていました。在宅医療の先生に相談した時の「施設に預けたらかわいそうだよ…。僕が看てあげるから」の一言が響き、「ただかわいいだけでいい」と思い、みくちゃんを連れて帰ってきた日を鮮明に覚えています。
どんな障がいがある子どもでも安心して預けられる場所をつくりたい!
みゆちゃんはショートステイに通っていましたが、当時は未就学児のみの受け入れでした。「預け先がないだけでお母さんに不安になってほしくない」「ずっと使える施設があったらいいな」と漠然と思っていました。
ソルウェイズを立ち上げるきっかけになったのは、札幌市で初めて医療的ケア児にも対応した放課後等デイサービスができた時のオープニングイベントでした。医療的ケア児者とその家族を支える事業主へのサポートを全国各地で行っている「全国重症児者デイサービス・ネットワーク」創設者の鈴木由夫さんと出会ったのです。そして、「私たちでもできますかね?」と訊ねたら、「医療的ケアの子が2人もいてすごいことだね」と前向きに背中を押してくれたのです。
障がいのない子どもを生んだお母さんでも、お母さんじゃない時間はほしいはず。私はコーヒーが好きで、家の近くのカフェでコーヒーを飲む時間が幸せな時間です。自分と子どもだけの世界になってしまうと、自分が社会の一員であることを忘れてしまいます。でも、いつか子どもは私からも離れることになる。お母さんたちにも自分の人生を考えてもらいたいです。
お母さんが1人でどうしようと悩むことがあっても、環境が整っていれば、どんな子でも安心して生み、育てることができます。昔みたいにおじいちゃん、おばあちゃんが支えてくれる時代ではありません。お母さん側に何かしらの困難さがあって、子育てがうまくいかない方もいます。虐待や育児放棄につながってしまい、その結果、子どもに重い障がいが残ってしまうケースもありました。その当人にしかわからないつらさを理解してあげられる場所が必要だと思います。
どんな障がいのある子どもも、地域で一緒に成長できる社会
自分の人生も歩んでいこうと就職活動をしても、小さな子どもがいるというだけで、面接を断られることが何度もありました。「男女平等」と言われる現代でも現実は厳しいものです。男性だけの収入では暮らしていけない時代となり、子育て、介護、仕事、税金負担等が女性にものしかかってくる中、子どもたちに寄り添い、女性が働き続けられる社会の仕組みが不足しています。
障がいを持った子どもたちがあなたのすぐ隣りに住んでいるかもしれない、あなたの暮らす地域にも一緒に暮らしているんだということを広めていきたいです。こうした子たちは災害時に避難所にも行けない子も多く、日頃から何かあった時に「助けて」と言える関係づくりが必要です。「社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)」とも言われますが、普段からお互いに寄り添っている地域でないとうまくいきません。
また、この子たちも親がいなくなったら一人で生きていかないといけません。将来を見据えた場所が必要です。福祉にかかわる人が交流し、人材の確保や育成の場にもなり、子どもたちの成長とともに、その場所も一緒に育っていく。地域とともに成長していくような場所が各地に必要です。どんな子も「かわいい、かわいい」と言って育てられる社会にしていきたいです。
取材者の感想
1時間ほどお話を伺って、1本の映画を観たような気分になりました。それほど、佳江さんのお話にはめまぐるしいほどの喜怒哀楽がありました。佳江さんには現在4人のお子さんがいらっしゃいます。重い障がいのある子を2人出産した後に3人目、4人目のお子さんを産むには相当な覚悟が伴ったのではないかと思います。
3人目のお子さんを妊娠した際、一番驚いたのはみゆちゃんとみくちゃんの主治医の先生だったそうです。助産師さんが「まさかまた来てくれるとは思わなかった」とすごく喜んでくれたのがうれしかったというお話には、思わず目が潤んでしまいました。
「障がいのある子どものお母さん、障がいのある子と障がいのない子の両方がいるお母さん、どちらの気持ちもわかるのが私の強みだと思う」と今は言えるようになった佳江さんも最初は戸惑われたように、我が子に重い障がいがあるとわかれば、どんなお母さんやお父さんも少なからず不安になることでしょう。そんな時にそっと寄り添ってくれる場所が地域にあれば、子どももお母さんもお父さんも、きっと笑顔になれるのではないかと思います。(長谷川)
運上佳江さん:プロフィール
NPO法人ソルウェイズ 共同代表理事
北海道で生まれ育った生粋の道産子。2002年に薬剤師となる。札幌市内の調剤薬局に勤務し、08年に長女、13年に次女を出産。姉妹に重度障がいがあったことをきっかけに、どんな重い障がいがあっても生まれ育った地域で生きるをテーマに17年にNPO法人ソルウェイズを立ち上げる。現在、札幌市と石狩市で児童発達支援、放課後等デイサービス、生活介護事業所などを5か所と、訪問看護ステーション、居宅介護事業所を運営。
NPO法人ソルウェイズは、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」の登録先です。
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