凸と凹「登録先の志」No.16:山中権太郎さん(NPO法人ワークショップひなたぼっこ 理事長)


障がいを持った10歳年上のいとこ


10歳年上の障がいを持ったいとこに、周りがかけていた励ましの言葉。それらの中に差別的な発言が含まれていると認識できるようになったのは、年を重ねてからでした。その後、いとこの症状がひどくなり入院を重ねるようになると、だんだんと周囲からも忘れられるようになっていきました。

いとこが20歳で亡くなった時は身動きが取れないような状態で、葬儀は自宅で行われました。叔母はいとこが亡くなった後、ワークショップひなたぼっこを立ち上げて活動を開始しました。

高校卒業後は熊本市内で働いていました。お盆の帰省で親戚の家を回っている時に叔母から「施設を一度見に来ないか?」と誘われて、軽い気持ちで見に行きました。その時に利用者はいませんでしたが、丁寧に説明してもらい、「今度は利用者の方がいる時に見に来るね」という話をして、後日再度訪問しました。こういう世界があることに興味を持ち始めるきっかけになりました。

その後、叔母から「一緒に活動しない?」と声をかけられ、決意したのが30歳手前の頃でした。叔母はお金を稼ぐことを目的とせず運営しており、半分ボランティアのような感覚で給料もほとんどないような状況でした。やりようによってはきちんと経営できるのではないかと思い、自分でいろいろと調べるところからのスタートでした。最初は経営方法について叔母と相対することもありましたが、叔母も年を重ねる中で徐々に経営を任せてくれるようになりました。

ひなたぼっこに入って14年後の6年前に理事長になりました。


障がい福祉の分野はまだまだ進んでいない現状


活動を始めた当時、地域には障がい者が就労し、社会とつながりを持てるような場がなく、支援学級すらない状況でした。障がいに対する理解は少しずつ高まっていると思いますが、今でもひた隠す家庭が多い印象があります。一方で、困っている家庭からの相談は増えています。

どうしても大半の人は障がい者への理解が乏しく、偏見に結びつきやすいと感じています。あいさつするだけで補導されたり、周りに「この子とはかかわるな」と言われることもあります。障がいを持っていることを恥と思うような方もいらっしゃいます。

また、お子さんに障がいがあった場合、支援学級か通常学級のどちらに入るかという問題があります。その子のペースに合わせられるため、支援学級にいた方がストレスは少なく、長い目で見るとよいのではないかと思いますが、先生の影響もすごく大きいと感じています。

障がいを持って生まれる、生まれないは自分の意思では選べない中で、障がいを持って生まれただけで異端児扱いされてしまったり、学校や先生も選べない。学校にうまく適応できない環境をどうにかできないかと考えて、活動を続けてきました。

地域に少しずつ受け入れてもらいながら、これまで20年間活動できてきたことに感謝しつつ、まだまだ道半ばとも感じています。活動拠点の熊本県天草市牛深地区は、障がい福祉が介護福祉の分野より10年遅れていて、天草市内でも5年遅れていると言われています。周りの環境を一気に変えることは難しいので、自分たちが地域から認めてもらえるような団体になれたら、利用者に対する周りの接し方も変わってくるのではないかと思っています。


名前で呼んでもらえるような関係をつくっていきたい


コロナ禍でこれまで実施してきた販売会等がなくなり、地域の方との接点がなくなったことで、利用者からも「イベントに行きたい」という声が多く挙がっていました。2022年4月にやきいも大会を初めて開催した際には、利用者がすごく楽しみにしていることを感じました。地域の方と利用者が活動を通して触れ合う中で、地域の方に理解していただく機会が増えるように、できることはやっていけたらと思っています。

天草地域には他にも障がい者支援の団体が2つありますが、他の施設は自団体での活動がメインな印象があります。ひなたぼっこの売りは連携を大切にしているところだと思っています。地域の方に障がいのこと、障がい者のことをまずは知ってもらうために、地域との連携を模索して、今回新たに地域食堂を始めることにしました。

利用者はみんな明るくて、素直で、お互いのやり取りは少しぎこちないけれど、本心でコミュニケーションを取っていると感じています。実際に人となりを知ってもらえると見方も変わると思います。ゆくゆくは利用者お一人お一人を「○○さん」「○○くん」と名前で呼んでもらえるような関係をつくっていきたいです。


取材者の感想


ワークショップひなたぼっこでは、団体名の「ひなたぼっこ」から「おひさま」「ひまわり」といった太陽を連想する事業名がつけられています。

今回新たに立ち上がる地域食堂の名前は「ぽかぽかハウス」。利用者の保護者に配布している『ぽかぽか通信』が元々あり、言葉が浸透していて、職員の人とも「ぽかぽかっていいよね」という話をして決まったものだそうです。

名前がすべてあたたかな感じになっているのは、そういった“あたたかな”地域の状況をつくっていきたいという願いが込められているとのこと。

「凸と凹」に登録している団体には、障がいを持った方をサポートしている団体が多くありますが、みなさんに共通するのは「障がいを持った方が生きやすい地域・社会」をつくることができれば、それは「みんなが生きやすい地域・社会」になるという思いのもと、活動されていることだと感じます。

障がいを持った方へのサポートを通して「まちづくり」の活動をしている。「まちづくり」だからこそ、地域のみなさんと一緒に活動するのだと思いました。(長谷川)


山中権太郎さん:プロフィール


NPO法人ワークショップひなたぼっこ 理事長

1999年熊本県立牛深高等学校卒業。10歳年上のいとこが障がいを持っており、20歳という若さで亡くなり、その経験より障がいへの差別を知った。叔母が熊本県天草市牛深町で障がいを持たれている方への支援を開始し、お盆の帰省時に見学したことがきっかけで障がい者支援に興味を持つ。その後、NPO法人ワークショップひなたぼっこにて支援員として業務を開始。2016年10月より創業者である叔母に代わり理事長に就任。理事長就任後は、障がい者だけでなく発達に不安がある子どもへの支援や気軽に相談を行える相談支援事業など、幅広く障がいを持たれている方へ支援を行えるように事業を広げる。




NPO法人ワークショップひなたぼっこは、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」の登録先です。

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