凸と凹「登録先の志」No.13:小田知宏さん(認定NPO法人発達わんぱく会 理事長)


「発達障がいの方の人生を変えたい」という思いでスタート


今48歳の私が発達障がいの方に初めてお会いしたのは30歳の時。高齢者や障がい者の介護会社で、障がい福祉の責任者をさせていただくタイミングでした。就労支援の利用者に30歳前後の発達障がいの方が多く、とても優秀なんだけど、困っていることが多くて福祉サービスを利用していました。その時気づいたのは、30歳前後の方だと私たちが支援できることが限られてしまうということ。「この人たちが子どもの頃に療育をきちんと受けられていたら、世界を動かす天才になっていたかもしれないし、少なくともこれほど困っていないのではないか…」と思ったことが、早期療育を志したきっかけでした。

介護の世界を志したのは、叔母の存在があると思います。重度の障がい者で10年ぐらい一緒に住んでいました。ヘルパーさんが来てくれていて、福祉というよりも普通にサービスを受けているという感覚だったので、介護の仕事もブルーオーシャンに飛び込む気持ちで考えられたのは大きかったです。

その介護会社で早期療育をやってみようと、全国5か所ぐらいで実施してみましたが、失敗。ただの預かりサービスになってしまいました。とにかく預かりのニーズが高いというのが現実でした。「発達障がいの方の人生を変えたい」という思いでスタートしましたが、療育はほとんど実施できず、効果があるようなことは何もできませんでした。

福祉業界からいったん離れて一般企業で勤めましたが、2年後に福祉の世界に戻ってきて、36歳の時に発達わんぱく会を立ち上げました。紆余曲折しているように見えるかもしれませんが、自分の中ではストレートに進んできたイメージを持っています。


今まさに0~2歳の早期発見に取り組むべきタイミング


早期療育の早期とは、幼児期を指しています。特に脳の成長は0~2歳が最も育つので、その時に療育を受けられる環境を用意したいと考えています。しかし保護者にとって、障がい福祉という国の制度を活用するのに、自治体の障害福祉課に行って手続きすることはものすごく高いハードルです。国の制度を使わなくてもできる支援をやってあげたい、保護者が子どもの発達のために気軽に通える場所を地域社会に用意したいと思っています。それが早期発見事業です。

早期発見を意欲的に取り組んでいる他の組織には、公的なものと民間のものがありますが、そこだけでは足りていません。公的なものは、母子保健行政です。保健師が1歳半健診等で発達の支援が必要なことに気づいても、多様な業務があるために保護者に寄り添って具体的な対応をすることに十分な時間を割きにくい状況です。民間は子育て支援センターや子育て広場等がありますが、発達を専門的に支援する役割ではないため、早期発見の機能を果たしにくい状況です。私たちのような早期療育と早期発見にともに取り組む事業所が地域にあることで、制度のすき間を埋める役割を果たして、地域全体ですべての子どもの発達を支えることが可能になると考えています。

私たちが活動している浦安でも早期発見事業を行っている事業所は足りていません。しかし9年前に国の障害福祉の制度ができて、早期療育の事業所は今では全国で6,000超あります。そこで働く発達の専門家が増えてきたまさに今、0~2歳の早期発見事業が全国で拡大するタイミングだと思っています。

発達障がいの可能性のある子どもは10%とも言われています。保育園を訪問して「保育が難しい」という子を見て、アドバイスすることがありますが、どこの園長も近年増えているという話をしています。


0~2歳の小さなかわいい子どもは、税金でなく“志”でサポートしたい


子どもは宝だなと思っています。一人ひとりの子どもに無限の可能性を感じます。子どもたちには自分の人生はよかったなと思ってほしいです。子どもたちがどのように育つかは、大人の重要な役割だと思っています。特にこの仕事をしていると強く思います。

早期発見事業を広げていくために一番必要なのは、実際に課題を解決する仕組みをつくることです。保護者が気軽に利用でき、子どもがぐいぐい発達するような仕組みができれば、当法人のコンサルティング事業で全国に広げたり、業界団体の理事もやっているので、その団体を通しても広げていけると思います。今までは教室に通ってもらう形の仕組みをつくってきました。これからはアウトリーチ型の仕組みにも取り組みたいです。

税金を活用するには制度を整える必要がありますが、0~2歳の子どもには税金でない形、“志”でサポートすることが合っていると感じています。なぜなら、税金で支えるということは制度を利用するということ。0~2歳の子どもを制度に乗せることに抵抗感を持つ人は多いです。

この仕事をやっていてよかったと感じる瞬間は、お母さんの表情が元気になっていくことです。最初は表情がすごく硬かったお母さんが、何度かかかわっていくうちに別人のようになっていきます。小さな子どもにとっては、お母さんなど身近な養育者との関係が世界のすべてなので、その世界を笑顔に満ちたものにできれば、子どもは自ら飛び出てチャレンジしていこうという気持ちになります。子どもたちの豊かな成長のために、早期発見事業に取り組みます。


取材者の感想


小田さんのお話を聴いていて、「自己肯定感」が一つの大事なキーワードなんだと思いました。

「自身の経験を、失敗も含めて赤裸々に公開されているのが印象的ですね」とお伝えすると、「考えるのが苦手で、やってみて、失敗して、経験して気づく。自分の一番の強みは自己肯定感の高さだと思う。“失敗”と捉えていないので。両親に感謝ですね」という言葉が返ってきました。

それは早期発見事業でも共通していて、最初は不安だらけの親御さんが自信を持って我が子に接することで、お子さんの自己肯定感が高まっていく。日本の子どもたちの自己肯定感の低さが指摘される中で、「障がい児の親とそのお子さんだけでなく、本当はすべての親とそのお子さんに事業を提供したい気持ちがある」とお話されていたのが心に響きました。(長谷川)


小田知宏さん:プロフィール


認定NPO法人発達わんぱく会 理事長(公認心理師・社会福祉士)

愛知県生まれ。1997年東京大学経済学部卒業後、丸紅株式会社入社。2000年より株式会社コムスンにて障害福祉に携わる。発達障害の早期発見・早期療育に取り組むために10年NPO法人発達わんぱく会(現在は認定を取得)を設立して理事長に就任、11年3月「こころとことばの教室こっこ」開設。全国児童発達支援協議会理事。




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